24 バラクラフ王廟
結局、その日、リフィルは帰ってこなかった。
朝まで解読がかかったという割にライナーもリフィルも活き活きしていて、解読の成果は目に見えていた。
石版によると、あの魔物は古代バラクラフ帝国を襲っていた厄災の原因だったという。当時の召喚士が風の精霊シルフを使役して封印し厄災を鎮めるために作られたのがあの石舞台だが、長い時を経て厄災と精霊は混同された。
石版は、後世で厄災が復活したときは風の精霊を使役できるように安置されていたものらしい。風の精霊がどこにいるのか、これでわかったことは幸いだった。
「おそらく封印はバラクラフ王廟にあるはずよ」
バラクラフはシルヴァラント最後の王朝。象形文字の時代に滅びたというのだから、どれほどこの世界は国というものが無かったのか。
救いの小屋を経由して彼らはアスカード西の島へとやってきていた。
竜に乗って。
「すっげー!よく馴れてる!」
発端は
の一言だった。アスカードを散歩していた際、竜の貸し出し所をみつけたのだ。
そこには竜、というより二足歩行の爬虫類的な生き物がいて、店主は最近は竜に乗って旅をする者がいなくなったと嘆いていた。
乗り物があるならこんなに合理的なことは無い。
本来は、ルインとアスカードを往復するものらしいが、閑古鳥であったので店主は気前よく貸してくれた。
移動速度と、体力温存を目的に是非も無く提案は受け入れられ、パーティの半分には違う意味で大絶賛の支持も得て、今に至る。
「かわいーねー」
コレットに言わせると犬を筆頭に、猫などはもちろん半目で寝ている亀やロイドの寝姿すらかわいく見えるらしい。竜も例外ではないようだった。
うろこの後頭部を撫でながら飽きることなく触っている。
はといえば、ノイシュに乗っていた。
ノイシュが居るから竜を借りるのは人数マイナス1頭だったのだが、ロイドが乗りたがったため譲った次第である。
譲った感想はといえば。
「癒される」。
これに尽きる。それに視点はむしろ竜より高いので気持ちよかった。
どうせ、飽きれば交代になるのだ。
ただ困った点はといえば、モンスターが出ると
が降りるまもなくノイシュが脱兎のごとく逃げ出すことだった。
……まぁ、この辺りのモンスターは強くも無いので問題ないとしよう。
やがて山間に、巨大な石造りの建物が見えてきた。
象形文字を使うような文化の人間が、どうやって切り出したのか寸分違わぬ真四角の石が組み上げられてつくられていた。
入り口や周囲に経っていただろうの柱は残念ながら崩れていたが王廟自体は健全だった。
「着いたわ、ここがバラクラフ王廟よ」
観光の名所という割には、人間は少なかった。
行商人のテントが張ってあるがそれだけだ。
ツアーにでも乗らない限りはやはり危険だからだろう。
しかも、内部には入れないようになっている。
「中央の階段を上って、祭壇に地図を奉納するのよ」
「はい、先生」
しかし、そこはそれ、入口に設置された台座に手に入れた地図を置くと、上にあった長方形の石がスライドして神託の石版が現れた。
マナを根源にするこの世界の法則というのは仕組みが計り知れない。
正にジューダスと
にとっては「魔法」の世界であると思う。
ともかく、そうして現れたおなじみの石版にコレットが手をかざすと封じられていた岩の扉はあっさり彼らを招き入れてくれた。
「♪」
「おおー!何かワクワクするぜ。探検家気分だな」
ロイドの感想は正しい。岩の組まれた王廟はいかにもな雰囲気に満ち溢れている。
妙に機嫌が良いリフィルはともかく、きょろきょろと見回していたコレットたちも同感そうだ。
「…おまえはいつも、最初だけは威勢がいいな」
呆れたようにクラトス。
入り口に立つと奥は薄暗く、背中に光を背負いながら
は先に侵入している影の行く手を見て、イン●ィジョーンズ張りの罠が仕掛けられていそうだと率直に思った。
はたして…それは間違えてはいなかった。
「ここは他のところに比べても明らかに遺跡だよな」
「そうだ! ロイド!よいところに目を付けたな!」
「げ! リフィル先生!遺跡モードだったの?」
「変な名を付けるな!」
ごめんなさい。ロイドの命名前から勝手にそう呼んでました。
そんなふうにずかずか進んでいくと先頭を行くリフィルと並んでいたロイドが悲鳴を上げた。
「わぁ!!」
「何!?」
「針が出てるよ〜!!」
壁の横から飛び出してきた巨大な針の手前で危うく飛び退いて、事なきを得る。
映画ではありがちなシーンだが、刺さったらシャレにならないトラップだった。
「なんでこんなものが…」
映画ではありがちなんだが、実際そういう罠があるのは戦場ぐらいだと思いながら
。
ジーニアスは飛び出た針をおそるおそるつついている。
「王廟というからには、盗掘を防止するための罠のひとつもあってもおかしくないんじゃないのか」
と、これはジューダス。
「王廟って何?」
「お墓のことよ」
意外なことにそう訊いたのは
だった。
なじみの無い言葉であるのは確かだった。
「……じゃあ私たち、墓荒らししてるってこと?」
「「「え」」」
そういうものはあまり得手ではなく、途端に背筋が寒くなった心地でまじまじ言うとジーニアスたちも固まる。
「そ、そっか…そういうこと、だよな」
「でも封印が!」
「じゃあ頑張って墓荒らししないと!」
「これは一体どういう仕掛けで動いているのだ。古代の機械なのか!?」
ロイドとコレット、リフィルがちぐはぐなことを言い合うとジーニアスははぁ、とため息をついてもう勘弁して欲しいといわんばかりで呟いている。
「三人は楽しそうだけど、ボクもう早くここ出たいんだけど…」
「全くだ…」
ちぐはぐなまま、パーティの雰囲気は前後でまっぷたつに割れて王廟を進んでいく。
「風の音がするね」
「え?そう?」
そよ風は吹き続けていた。閉鎖された空間なのに。
見ると壁際に通風口があって空気が流れていた。
「…これ、どこにつながってるんだろ」
「それは現状とは全く関係ない疑問だな?」
「うん… ん?」
覗き込んでいると…風の音が変わった。ゴォォっと明らかに…
「うわぁ!なんだ!!?」
強風の前触れだった。
今はクラトス以外はみんな揃って吹き飛ばされたので前触れというより現在進行形でありえない強風が通路を吹き縋っていった。
「さすが風の精霊のいるところだけあるな!!」
「感心してる場合か!」
なんとか隣に居た
の手を引いて横道に逃れたジューダス。クラトスはその前の通路に入ったらしい。
一番軽いジーニアスと遺跡モードを堪能しているリフィルは素直に奥まで吹っ飛ばされたようだった。
「…分断されちゃった」
「先に進めば合流できるだろ」
風がやむ気配は無い。退路は経たれたということか。
気合で風下の通路まで歩くくらいならできそうだが、敢えて危険に飛び込んで今のリフィルたちと合流しようとも思わなかった。
一番風上のクラトスも来ないということはつまり先に進んでいるということだ。
「あ、ジューダス。あそこ、何かあるよ」
何か、が石版と知って寄り道に積極的な
。
相変わらず微風のただよう通路の奥、二層になっているらしい王廟の階段の下に、大きな黒いタブレットがあった。
「バラクラフは風の民 風と共に生まれ
精霊と共に生き、死して風となる…だって、何かいいね」
「何がだ」
水月をかざすと、透明な青いレンズの光がタブレットを照らす。
特に意味のなさそうな文章だが、そこにはバラクラフの王が風王になり三界を駈けるくだりや、古い歴史と自然への信仰を感じさせるものが描かれていた。
「暗い墓に入れられるより、そういう方がいいかな、って」
「…こういう場所でそういう話は感心しないな」
感心しないというより雰囲気の問題だろう。微かな風の吹く他は空間は沈黙している。
あれほど騒がしい一行がいるなら声が聞こえてきそうなものだが。
ジューダスは首をめぐらせるがやはり、人影などはみつからなかった。
その代わりに。
「…あそこにも何かあるぞ」
階段を上った場所にそれをみつける。同じ黒曜石のタブレットだ。
そして、言ってから後悔した。
「行ってみよう」
リフィルたちと合流することより彼女の好奇心の向く方向へ、進むことになったから。
「待て、もう少し慎重に進め」
「大丈夫だよ、階段の横から槍は出ないから」
「どういう理屈だ」
階段を上らずにまっすぐ行けば、方向的にはリフィルたちがいるはずだった。
軽い足取りでそこを上り始めた
の腕をつかむも、一度足を止めさせると結局並んで歩くことになる。いや、入れ違いにジューダスの方が先に立って。
「リオン、先に行くと危ないよ?」
「そのままそっくりお前に返す」
ジューダスは慎重に辺りに目を配りながら進む。
先ほどの罠を見てしまえばここは普通のダンジョンとは訳が違うのは明らかだ。
「私はコレットみたいなドジはやらないと思うけど…」
「あの手のドジはやらなくても一般的な許容範囲で罠を作動させる可能性はあるだろ」
『もう、二人とも気をつけてくださいよ』
互いに自分の方が危険を買って出ようとする二人に耐えかねたようにシャルティエ。
心配性なため息が聞こえた。
幸いタブレットまでに罠は無く、そこで再び内容を二人は確認した。
「精霊とそれに仕えし風 聖印を刻んだ先にあり」
世界は巨人なり
赤き左手は神の御座 緑石の右手は神の威光
白き左足は安息の大地 黄玉の右足は豊穣の大地
瑠璃の体は青き風姫なり
これもまた、古代の抽象的な信仰の遺産か。
ジューダスはその意味を図ろうとしたが、
は軽く腕を組んで考えてから小さなメモ帳を取り出した。
そこに文章を書き写す。
「何かありそうなのか」
「多分ね」
覗き込んだメモは更に抽象的だ。赤-左手−神の御座などと単語として書き込まれていた。
「さて、行こっか」
「寄り道をしたがったのはおまえだろうが」
途端に好奇心の探索から目的を元に戻したらしい
は、奥に続く通路を指し示した。
* * *
大きなホールにたどり着いた時、そこにはクラトスが一人立っていた。
「お前たちか」
「コレットたちとは結局合流できなかったね」
その先には大きな岩の扉がある。部屋には不思議なオブジェがいくつか置いてあった。
展示場のようだ。他には何も無い。
けれど、それが何を意味するのか
は知っていた。
「クラトスさん、ここに来るまでに何か変わったものはありました?」
「いや…なかったが。どうかしたのか」
「いえ、なんでも…」
するとリフィルたちを待って引き返すか、それとも今探しに出てみるか。
そんなことを思ったその時、喧騒が近づいてきた。
「おわぁ!!また針が!」
「ロイド…お前はまっさきに罠を作動させるが、楽しいか?」
「…………楽しくないです…」
それはロイドが常に一番前で歩いているからなのだろうが声を聞きながら呆れていると彼らも到着した。
「あ、
」
「おぉ!なんだこれは!」
「僕らの無事より遺物が先か」
相変わらず遺跡モードのリフィルは部屋のオブジェを見るなりダッシュでクラトスとジューダスたちの間を走り抜ける。あの調子でよく遺跡のトラップにひっかからなかったものである。
「ひょっとしてこれか!?聖印などというあの記述に関係あるものは!」
「!」
「あ、やっぱり何かみつけて来ました?」
の言葉にくるりと勢いよくリフィルは振り向いた。
「そちらも何かみつけたのか!」
「先生、ちょっと落ち着けよ」
ロイドに言われるようでは閉口ものである。
かまわず
は自分のメモは出さずに訊いた。先に出したら奪取されて話がややこしくなるに決まっている。
「記録とか、とりました?」
「もちろんだ!」
さまざまな情報を書き込んだ愛用の手帳を突き出しリフィル。
そのページをみるとこう書いてあった。
「王を讃える聖印は、神の御座から豊穣大地へ流れ神の威光から安息の大地を巡る。世界の中心で青き風姫が誕生せし時、聖印は完成するものなり…意味するところがわからなかったのだが、どうやらこの部屋に関係がありそうだな!!」
黙読するまでも無くリフィルが読み上げてくれた。
それで、ジューダスは先ほど
のメモした行動を理解したらしい。
「赤、黄、緑、白、青」
「何?」
いきなり意味不明のことを言い出した
に眉を寄せるリフィル。
そこでようやく
は自分の取ったメモを彼女に提示した。
つまり、聖印の切り方は対応する色の順でありそれはといえば一見無造作にこの空間におかれたオブジェにはめ込まれている宝石の色にも対応している。
「素晴らしい!よくやったぞ
!!」
褒められた。
「え、でもどうするんだ?これ」
「なんでもいいからいじってみ?」
いじれと言われても…なんとなく像を前に悩んでいるロイドをどかして結局
は自分で触れて調べてみる。無論、リフィルはまっさきに像を調べようとしたが先に「赤」をみつけたのがロイドだったと言うだけだ。
「これ、ルビーかな」
「すごーい、ルビーだって!」
実を言えば赤い宝石と言えばそれくらいしか思いつかなかっただけなのだが。
故に正しいのかどうかはわからないのに、すっかりその気でコレットたちは興味津々である。
「…」
金のリングに縁取られた宝石の部分を回してみると存外簡単に何らかのスイッチが入ったようだった。
「あ、風が…」
どういう仕組みなのだがオブジェの細い隙間から風が流れ出た。締め切られていたこの空間にとっては新鮮なものだ。
「よし!次は何だ!」
「なんでしたっけ?」
「『豊穣大地』だ」
一見ちぐはぐな会話を繰り出してそこから先はリフィルが仕掛けをといていく。
「
、凄ぇな」
「ほんとだね。よく調べてきたよね」
「いや、そうじゃなくて…あのリフィル先生とよく普通に話してるよ」
にっこりと言った幼馴染に独り言のようにロイドは呟いたのだった。
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