25 3度目の変化
その先はどうやら屋外のようだった。
ただ、真っ白な霧があたりを取り巻いていて何も見えない。
祭壇の中央にある円形の装置のようなものはこれまでにみた封印と殆ど変わりは無いようだが、その向こう側にある柱さえもかすんで見える霧の深さだった。
ここに入る前は空は快晴だったことを考えると何らかの要素により切り離された空間と考えることも出来る。
「やっと祭壇かよ…ダンジョンはもう飽きたぜー」
「…根気のない奴だ」
根気というより目的意識に欠けるというか。時々、彼は本当に遠足じみたことを言う。
クラトスが浅いため息とともに冷たく言うとロイドはぴたりと黙り込んだ。
「…まって。凄いマナを…感じるよ」
「試練、なのだろう?」
今まで見てきたふたつの祭壇と全く同じつくりのそれに、もう驚くことはないとばかりにジューダスはシャルティエを抜いた。
祭壇に光が凝縮すると現れたのは人間に進化しかけたような体躯をした巨鳥だった。ハーピー、と形容した方がいいのだろうか。顔は人面ではないが、身体のつくりはそれに似ている。
「やってやるぜ!」
ロイドが二本の長剣を器用に抜いて、眼前で交差させる。
巨鳥…この場合は神獣とでもいうべきか、の翼が大きく開かれると風がどこからともなく巻き起こった。
「っ!!」
つぶての様に放たれるフェザーレイン。
くぐりぬけてジューダスがその足元からシャルティエを跳ね上げた。
けたたましく響く悲鳴。それは怒号というよりに狂乱的ないななきに近い。
「砕けろ!ロック ブレイク!」
ジーニアスの魔法が続けざまに飛行状態から床に落ちた巨躯を再び跳ね上げる。
「散細雨!」
「瞬迅剣!」
ロイドとクラトスが両の側から剣を突き立てる。
咆哮をあげながらガーディアンは仰け反り、そして断末魔をあげた。
「今回も出る幕がなくてね」
幸いと肩をすくめるようにリフィル。
アスカードの人間牧場からこちら、怪我もしないのでほとんどリフィルが手を患うことはない。
怪我を負わないのは幸いだが、今苦労しないとあとで大変な気がしないでもない。
経験は大いにつんでほしいものだ。
などと
は少々他人事にやったやったとはしゃぐ幼馴染衆を眺めた。
まもなくガーディアンが消え去ると戻ってきた静寂。
祭壇から緑色の光が気泡のように湧き上がり、一行の視線を集めた。
鋭い細光が集うと閃光となって風の柱が天を貫いた途端に霧は吹き飛び、ここが天に近い場所であると示す。
正面に見える山並みに取り巻かれた樹海こそが神聖な祭壇のようだ。
やがて、緑色の光がけぶるように拡散するとどこからともなく声は響いた。
───再生の神子よ よくぞここまでたどり着いた さあ祭壇に祈りをささげよ
目にささるように鮮やかな蒼空から光が降臨する。
それは空の青さとあいまって、今までの封印で見るよりもはるかに神々しく見えた。
レミエルの光臨だ。
「…はい!」
そして、これまでのように傅いて同じ祈りの言葉を捧げると天使と呼ばれる者は姿を現し、コレットも光の羽で宙に浮かぶ。
「ここは第三の封印。よくぞここまでたどり着いた。神子コレットよ!」
「…はい」
肉声がコレットを労った。
「クルシスからそなたに天使の力を。我らが祝福を受け取るがいい」
「…は、はい。ありがとうございます」
にべもなくレミエルが言い放つと光が集い、コレットに吸い込まれる。
レミエルは口の端だけで笑うと山並みの向こうにはるか視線を投げ、次の道を指し示した。
「次の封印はここよりはるか北。終焉を望む場所。かの地の祭壇で、祈りをささげよ」
「わかりました…レミエルさま」
どこか無機的な、あるいはレール上にある儀式的な口調でレミエルは淡々と進める。
コレットはもう彼を父とは言わなかった。
この様子ではそうとはもう思えないだろう。
けれどレミエルは
「また次の封印で待っている。我が娘…コレットよ」
そういい残し、光の翼を残光にして消えた。
旅の終焉は近い
早く真の天使になるのだ
よいな…
声は空に吸い込まれるように高く響きながら
大気の中に消えていった。
静寂と風が戻り、一行は祭壇を後にすることになる。
「真の天使…かぁ」
再び王廟の通路を辿りながらコレットが呟いた。
「どうした?」
「ん、何でもない。真の天使になったらきっと凄いんだろうなって」
ロイドにいつもの笑顔で微笑む。
「あっ、コレット!足元!」
「えっあ…」
暗闇で失念していたのかそれとも単なるいつもの病気か、コレットはジーニアスの警告も空しく下る階段を踏み外し悲鳴を上げた。
「きゃあ!」
「コレット!!」
危うく落ちかけたコレットをそのままロイドが支える。
いつも通りといえばいつも通りの展開だ。
「大丈夫か?」
「う、うん。」
「「あっ!」」
しかし、手を離そうとすると今度はぐらりとロイドごと彼女は階下に転がり落ちた。
踊り場まで高くないのが幸いだった。
「いってぇ」
「もー!何やってんだよ!コレット、大丈夫?」
支えきれなかったロイドに非難轟々。
ロイドはすぐに四つんばいに身を起こしたが、うつぶせに倒れたコレットは顔を上げたものの虚空を見つめたまま、起き上がろうとはしなかった。
「…」
「ど、どうしたのコレット!痛かった?どこか怪我したとか」
「う、ううん。なんでもない。えへへ、ほーっとしちゃった」
「天使疾患ではなくて?」
「…ごめんなさい」
謝った、ということは二度目のそれは天使疾患の症状だったのだろう。
手を取って身体を起こさせるがそのままぺたりとコレットはお尻をついてしまう。
「とにかく早く外へ出て横になった方がいい」
「そうだな、じゃあほら!」
ロイドが背中を見せて膝をついた。負ぶされ、ということなのだろう。
幼馴染だけあって屈託のない行動だった。
それともロイドは相手が誰でもこうするのだろうか。
自分で歩けると言いかけたがロイドにせかされてコレットは背中を借りる。
「封印ってあとどれくらいあるんだろ?」
「わからないわ、こればかりは…」
「とにかく前に進むしかなかろう」
そして出口の光が見えた頃だった。
「待て!」
奥の暗闇から追ってくるように影が現れた。
「!」
「この声は…」
「嫌な予感」
「ようやくこの日が来たな、この古代遺跡がそのまま貴様たちの墓場になる」
言うことだけはすばらしい暗殺者に一同からため息が漏れた。
そこにいたのはあの、く刀を持った女だった。
「あなたもここにきてたんですね〜!」
ロイドの背中から下ろしてもらってふらふらとコレット。
「ち、近づくな!動くな!物に触るな!」
よほどオサ山道の地下で恐ろしい目にあったのだろう。
何よりもおっとりしたその動きを警戒しながら女はあたふたと手を振った。
「あのさぁ」
「?」
呆れてものも言えない一行の中でようやく
が声をかける。
少々馬鹿馬鹿しさは滲んでいた。
「コレットは具合が悪いんだけど。そんな相手を襲って、胸張って任務完了するような仕事?」
「何?」
思ったとおりだ。表情にどこか敵意とは別の色が浮かぶ。
かなりお人よしの暗殺者だった。
普通、暗殺者など殺すことが目的なのだから相手の状態など関係ない。
しかし彼女はお人よしに加えて仕事を選ぶ方らしかった。
そこへ逆なでしてしまったのはコレット。
「せっかくお友達になれたのにどうして戦わなければならないんですか?」
「誰がアンタと…!ゴホン 貴様らと馴れ合うつもりはない!」
どうしてそこまで思考が飛躍するのか。
謎である。彼女の中ではクラトスも「友達」カテゴリに入るのだろうか。
「…覚悟!」
そんなことを考えていると女は性懲りもなく戦いを挑んできた。
手にした紙切れ…「符」から出たモンスターは一体。
やはり車輪のような身体に長い手足がついている。
今更なんだが、
は鋭い観察眼でもって天狗の面を背負っていることに気がついた。
「何笑っている!」
「ごめん」
異文化だなぁと思いつつ。女性陣はコレットを護るように壁際に退避していた。
多勢に無勢、今回もまた、
が剣を抜く必要もなく暗殺者は屈することになる。
…そもそも暗殺は正々堂々するものでもない。
「くっ!どうして…勝てない?」
「正義と愛は必ず勝つ!」
「あのなーあのアホみたいなドワーフの誓いをひっぱりだすんじゃねーよ」
何が嬉しいのか例のごとく拳を突き上げて軽くジャンプした幼馴染の姿を半眼で見つめるロイド。
彼としては完全に白けていたが暗殺者にとってはそういう場合ではなかったらしい。
「…何が正義だ」
膝をついたまま吐き出した言葉は辛らつな空気をまとっていた。
「お前たちが正義なもんか!お前たちが正義だというならあたしたちだって正義だ!」
「お前も一緒になって正義正義言うなっ!恥かしいやつだなぁ!」
「お前に何がわかる!お前たちが世界を再生するとき、あたしの国は滅びるんだ!」
“あたしの国”
はその言葉を聞き逃さなかった。
それはリフィルも同じだったらしい。
「待って、どういうこと?私が世界を再生したらみんな助かるんでしょう?」
「助かるよ、この世界はね!」
「!!?」
驚きをよそにさっと身を翻す。
捨て台詞のようにそれだけ言い残して、あっというまに女は王廟の暗闇の向こうへ消えていった。
「待ちなさい!あなた、何者なの!?他に仲間がいるのね!?」
後には静寂と、仲間たちの疑問の声が。
「この世界…?世界にあれもこれもないよな」
にとっては確信がひとつ、残っていた。
* * *
天使疾患は夜を迎える頃には退いていたらしい。
コレットは一人、風に当たってくると野営の炎から離れていた。
今日はバラクラフ王廟の崩れた外門に陣を取っている。
半壊しているとはいえ建物の近くが安堵感をもたらすのか、いつもよりそれぞれが離れて好きな場所に腰をかけていた。
とジューダスはつかず離れずの倒れた柱の上に腰掛けて、火の周りに座るジーニアスたちを眺めている。
星空に黒々と王廟の影がそびえていた。
ロイドがカップをふたつ手に炎から離れてこちらへ向かってくる。
通り過ぎようとしたところで彼はふと、思い立ったようにこちらに進路を変えてきた。
「なぁ
。これ、魔法で冷やせないか?」
「何これ、コーヒー?」
「あぁ、お前らの分も向こうに入れてあるよ」
「いらない」
コーヒーはなんとなく刺激が強すぎて苦手だ。
薄くすればいいのだろうがそれでは味まで薄まってしまい堪能できない。
香りは好きだがそれだけでは淹れる理由にはならず、あまり手をつけることもなかった。
インスタントなどない世界だから近づけられれば、芳しい香りは確かに感じられた。
あっさり断られてロイドは微妙な顔をしたがカップは引き戻さない。
これはコレットの分なのだろう。
「魔法で冷やすって…そういう微調整ならジーニアスの方が得意そうだけど…」
言いながらも苦労して水月で晶術を使ってみる。
晶術は薪を燃やす、泉ごと氷付けにするなどの比較的大掛かりな破壊的行動には向いているが壊さないように手加減をするというのは難しいものだ。
とりあえず岩の合間に氷を作ってそこにカップを沈めさせてみる。
「そっちは?」
「あ、これはいい」
ひとつだけ冷やす、というのもわからないものがあるが好みの問題だろうか。
バラクラフは山間なので少し涼しいがこの気温ならどちらでも飲めるだろう。
個人の趣向には口を出さないことにする。
「…随分思いつめた顔をしているな」
「へっ?」
唐突なジューダスのそれは戯れだろうか。
表情は殆ど動いていなかった。正直、心配しているようでもない。
唯一、どうでもよさそうな素っ気無さは満々だった。
逆にロイドはどぎまぎと表情を作って頬をかく。
「そ、そんなことねぇよ。何も思いつめるようなこと、ないだろ?」
「フ、それもそうか」
…遊んでるのか、ジューダス。
そっぽをむくとムッとしたような顔をしたが丁度良い具合にコーヒーが冷えたようなのではそれを氷塊の合間から取り出して差し出した。
「はい、冷え冷えだよ」
「…カップだけじゃないか?」
「じゃあこの氷も入れてく?」
「いらね」
うっかりいい忘れそうになった礼をワンテンポ遅れてきちんと告げて、ロイドはコレットのいるだろう暗闇の方へと去っていった。
「…コレット、そんなにアイスの方が好きなのかな」
「さぁな」
「興味ないとか思ってる?」
「あぁ」
素直と言っていいのかわからない態度でジューダスは空を振り仰いでいる。
風が強いせいで雲が結構なスピードで流れて星も良く見えた。
おかげで空気も澄んでいる。
どうして片方だけ冷やすのか。
趣向の問題かとロイドの前では気にしなかったがコレットの性格も考えると不思議な行動だ。
おかしなところに興味を抱いてロイドの消えていった方を見ていると背中から声がかかった。
「お前はそんなにあいつらに興味があるのか?」
「じゃなくて、コレットが…」
自分で言いながら違和感を覚える。
コレットが…なんと言おうと口を開いたのだろう。
「知的好奇心、か?」
ジューダスの言っていることが一瞬わからなかった。
けれど次の瞬間、思い巡らせ、思い当たる節をみつけることは叶った。
「あぁ、天使化のこととか…それにしても…あの暗殺者、また来るのかな」
『だとしたら一人でふらふらさせるのってあんまり良くないんじゃない?』
シャルティエの声が割って入る。
彼らが離れた場所に居たのはなんとなくだが、シャルティエにとっては都合が良かった。
「あの様子なら間違いないだろうな。…あれで暗殺とは笑わせてくれるが…意味深なことは言っていたな」
「『この世界は救われても私の世界は』ね」
「…言いたくはないが別世界でもあるというんだろうか」
ため息をつくジューダス。そこには「また」という意味合いが込められている。
信じがたいが、自分たちのいた世界自体が異世界なのだから認めざるを得ない。
そういう体験をしていなければ一笑に付す程度だろう。
けれど
にとってはそんな体験がなかろうがそれは容易に考えられる可能性だった。
「テセアラ…かな」
「テセアラ?」
それは月のことだろう?とジューダスの視線が物語る。
「ずっと思ってたんだけど、世界に『シルヴァラント』って名前があること自体おかしいと思ってたんだよ」
「…」
異論はなかった。
それはそうだろう。彼の世界には名前というようなものはない。
の世界だとてそうだ。惑星として区別されるための名前はあっても「世界」としての名などなかった。
「…名前って言うのは他の同種の存在があって区別されるためにつけられるものだよね」
「お前は「テセアラ」がこの世界とは別の世界として存在するというのか」
「火のないところに煙は立たない、だよ。伝承にも物語にも、役割は違っても必ず出てくるって事はテセアラと呼ばれる存在はどこかにあると見ていいと思う」
ジューダスは内心脱帽する。
彼女は童話や偉人シリーズなどという絵物語から現実を紐解こうとしている。
「テセアラの民が月に、って話を聞いたときにひっかかってたんだよね。
月でなくても元々ひとつだったものが分たれている可能性はあるのかも」
「じゃああの暗殺者が言っていたことはどうなんだ」
「…この世界が救われると私の世界が滅ぶ?」
ジューダスは頷いたかどうかわからないくらい緩やかに視線を落とした。
「保留」
結果を出すには時期尚早だ。
言い草からしても天秤のような関係であることには間違いない。
しかし、物語から察することできても、決め手にかけていた。
それはおそらくコレットたちに着いていけばいずれわかることだろう。
「別の世界…か」
自分たちはそこから来た。けれど語られている世界とは違う。
おそらくあの暗殺者にとって「この世界」は接点があったとしても彼らのいた世界とはなんら接点もないだろう。
ジューダスは何を思ってかまた、嘆息した。
その時だった。
「これが天使になる!?」
「?」
暗闇の向こうから遠く、ロイドの叫びが聞こえた。
振り返ってみるが姿は見えない。火の傍にいるジーニアスたちには聞こえていないのだろう。彼らに反応はなかった。
「食べなくなって、眠らなくなって、何も感じなくなることが!?」
何かロイドが叫んでいるが、先ほどより潜められた声は内容までよくは聞こえなかった。
「今のは…」
「コレットのことでしょ」
闇の奥を
も見ていたが、やがて何事もなかったように向き直るとつぶやくように言う。
「『天使化』」
「何か変化しているように見えるのか?」
ジューダスの問いはもう答えがわかっているかのようだった。
こちらも会話のテンポの現状維持を選んだのだろう。
藍色の闇に薄い笑みが浮かんで見える。
「うーん…」
ひっかかる点はある。けれど憶測だけで物を口にするのはこの世界に来てからは控えるようになっていた。
こと、天使に関してはうっかりしたことは言えない。
相手がジューダスであれば問題外だが。
「夜、よく起きてるね」
「そうだな。寝ずの番など普通の人間なら何日も出来るはずがない」
最も確実なところを引き出すとジューダスもそれに気づいていたようだった。
そう、彼女はおそらく眠っていない。
いや、言い切るには語弊があるだろうか。彼らが目を覚ましたときにたまたま起きていただけかもしれない。
けれどその回数は偶然を超えるには十分であったし、寝たふりをしたところで彼女は不器用だった。
「いつからかな」
「ソダを出た後だ」
ジューダスは鋭い。
誰かしらの行動が異常に値すれば見逃す理由もないだろう。
黙っていたのは害も何もないと判断したからだ。
おそらく、それが天使化の段階であると理解したのだろう。
「じゃあ最初の封印をといたときは…何か変わった?」
「さぁ。僕らはその前のあいつらを知らないからな。あいつらが気づけないなら変化としては小さなものなんだろう」
「そっか」
大きなものは天使の術として確実に出ている。
力だけでなく、体そのものが変わっている。
改めて話し合うとそれはとても異質なことだと感じられた。
「今まであまり気にしなかったけど…3つも封印解くとやっぱり変わるんだね」
ひっそりと夜の闇に再び静寂が訪れた。
僅かに吹く清涼な風は彼らの会話を妨げたりはしない。
「さっきも変だったよね」
「さっき?」
「階段から落ちたとき。たしかに「ぼんやり」はしてたけど…」
「元々ぼんやりしているからわからんな」
ここでのため息の意味はきっと呆れだ。
「お前はいつから気づいていた?」
逆にふられる。異常といえばそう呼べるほどのことでもないが始めに引っかかったのは…
「間欠泉でロイド呼んだ時、かな。あの場所で聞こえるはずがない。けどコレットは気がついた。
…何でかわからないけど偶然には思えなくて…違和感を覚えてる」
「感覚の鋭敏化か。あるかもしれん」
何も変わらないわけがないのだ。
それは始めにリフィルも言った。
天使化、の意味とはつまり「別の生き物になること」。
「クルシスとやらが与える力は確かに強力だ。神子の旅に有利に働くようにはなっている。天使がどんな生き物なのかは知らんが、あいつらの定義では人間以上、なのだろうな」
何を持って以下なのか以上なのか。
わからないでもないが、彼らが人間より優位に立っているのも明らかだった。
「だったら天使がディザイアン封印すればいいのに」
「極論だな」
フ、と薄く笑う。
彼はこの会話を楽しんでいるのだろうか。
いずれ天使などというものを崇拝するほどに信奉じみてはいない。
彼の中でも天使というのは生き物のカテゴリに分類されているに過ぎないようだった。
加えて神を討った人間が、神を復活させる旅に加わっているとはおかしな話。
それもまた先入観とはいえ、二人は疑問を抱かずに入られなかった。
『でも、天使化だなんて』
ふとシャルティエが嘆息するように声を上げた。人にしてみたら空を振り仰ぐような表情が見られたかもしれない。
『そんな役割があるなんて、万が一にも坊ちゃんやでなくて良かったと思いますよ』
「「はぁ?」」
突然の飛躍に二人して声を上げる。
『だって、寝たフリをするにしてもあの子、不器用だけど二人だったらソツなく隠し通すでしょうからね』
あぁ、ど同時に出る同意は互いに相手を当てはめていることを意味する。
ふと視線を合わせ、二人の表情に可笑しさが少なからずにじみ出た。
