INTERVAL 信頼と裏切り
コレットと合流直後、彼女を助けたプレセアが、その無事に笑った。
いままでの彼女にしてみると大きな変化だった。
少なくともエクスフィアの寄生から開放されたと思ってよいのだろう。
それはともかく
は急かされて、自分がいない間のことを聞かせることになる。
こっちだって聞きたいことはあるのだが…心配はしてくれたようなので素直にこれまで
の経緯を話した。
「さ、今度はそっちの番だよ。これまでどうしてた?」
話を聞いたら聞いたで満足したのかロイドやジーニアスは食事の用意にいそいそと取り
掛かっていった。今日の陽は落ち、残光は西の空に残るばかりだ。
傍に残ったのはなぜかゼロスで、他の誰に顔を向けることもなく経緯を語る。
「そりゃ
ちゃんの想像どおりっしょ。ヴォルトと契約するためにしいなを先頭にヴォル
トの神殿へ行ったのさ」
「…そのしいなになんとなく違和感があるんだけど、なんだろう?」
「あぁ、そりゃ…」
苦笑しながらゼロスは火に枝をくべているしいなを見やった。
「コリンが死んじまったからな」
「コリンが…?」
話ではヴォルトは人を拒んでいて、以前もしいなは契約に失敗していたのだという。
その時にヴォルトの暴走に巻きこまれ、多くの人が死に、頭領も目覚めぬ体になってしまった。
そんなトラウマからかそれともヴォルトが人語を話さず何を言っているのかわからぬ焦
燥か、パニックになりかけたしいなをヴォルトの雷撃からかばってコリンは逝ったのだと言った。
「それにしてもロイド君たちも物凄い信頼ぶりでよ〜」
「しいなに?」
「そ。根拠もないのにしいななら絶対失敗しない!とか言っちゃって。
俺様からすると羨ましいばかりの能天気だよな」
「能天気な神子がよく言う」
「俺様そこまでお人よしじゃないぜ」
頭の後ろで組んでいた腕を前に戻して組みなおす。
ゼロスの視線が刹那、いつもとは異なる素での呆れを辿っていた。
「大体会ってまだどれくらいだ?初めは敵だったってのも呆れるけど、それで信用でき
るもんかねぇ」
「ゼロスはしないわけ?」
「そりゃ人によるけど」
「じゃあロイドたちも人によったんじゃない?」
しいなは信用できるだろう。暗殺者にしては素直すぎるが、だからこそ人間的には信用で
きる。だが、その答えにもゼロスは不服そうだった。
「相手が俺様だったらそんなに信頼しないだろ」
いまのは。
ひっかかりを覚えて
はゼロスに向き直る。
なぜだろう。彼の口元には皮肉げな笑みが浮かんでいた。
「……そんなことないんじゃない?それは人によるでしょう」
先ほどの発言を逆手に捉えられて、少し驚いたようにゼロスは隣にいるを見た。
それから笑う。
大きくなった焚き火の明かりがわずかながらここまで届いて赤々とゆれていた。
「じゃあ
ちゃんだったらどうよ」
「うーん、でもヴォルトの場合はやるしかなかったわけで」
「ヴォルトは抜きにしてさ、もし俺様がそんな期待を裏切ったらどうする?」
「裏切り…」
にはいつもおちゃらけた男がなぜそんなことを聞くのかが謎だった。
戯れ、なのだろう。
の表情がよほど複雑に見えたのかゼロスはひらひらと手を振って「やっぱいいや」
となかったことにしようとする。
しかし、そうは問屋が卸さない。
「それは裏切る人の事情によるかな」
「事情があったら裏切りは許されるもんかい」
今度はゼロスの視線が一瞬だけ鋭くなった。
しかし捉えられるはずの
の視線は一瞬だけ向こうにいるジューダスを捉えている。
裏切られたと思っていなくても、彼は仲間を裏切ったと思っているし世間的にもそうなっ
ているのが哀しい事実だ。
「敵意を持って裏切ったなら、わたしも敵意を持とう。でもね、どうしようもなくてそうなっ
たんだったらそれは……」
言葉を一瞬詰まらせた。実のところ適切な言葉がみつからなかったのだ。
しょうがない。そんな簡単な言葉で片付けられるものではないし片付けたくもなかった。
しかし
が答えるより早くゼロスは他の条件でもって聞いてくる。
彼の求める答えはその先にはなかったのだろうか。
「どうしようもなくなくて、ただ単に天秤にかけられてたならどうよ」
「やっぱり人にもよるな。信頼してたのにそういう意味で裏切られたなら…哀しい」
「哀しい?裏切り者、と罵るんじゃなくてか」
「信頼してる分だけ哀しいと思う。そういう意味ではゼロスが裏切ったら私は腹が立つよ
り悲しいだろうね。」
ゼロスの目が丸くなった。彼の求める答えもまた、そこにはなかったらしい。
それとも初めから答えを求めてなどいなかったのかもしれない。
それにしてもそんなひとつの裏切りの基準があるとは自分でも新発見だ。
ふるいにかけられて振り落とされたということは、自分も相手を理解していなかったとい
うことなのかもしれない。それが哀しい、ということなのかもしれない。
「……それくらい信用はしてるってこと」
「へぇ、それは光栄だねぇ」
一瞬だけ真顔になったものの、その後はへらへらと笑いながら組んでいた手をほどいて振った。
そうして次の
の疑問は単なる好奇心の賜物でしかなかった。
「ゼロスは?私に裏切られたらどう」
「うーん?」
これが意外に難しかったらしい。あごに手を当ててしばらく考えたゼロスは…
「そりゃ哀しいなー俺様悲しすぎて死んじゃうかも」
「馬鹿者」
「でもってロイド君だったら、むかつく。ジューダスにジーニアスも以下略。リフィルせん
せーvは何か事情があると思うし、プレセアちゃんにコレットちゃんは…まぁ想像つかな
いわな」
単に女性と男性の違いだった。
するとますます馬鹿者といいたくなるが今言ったばかりなので連発は自粛する。
「…アホ……?」
「ちょっと待って、なんで疑問系?」
「よくわからないけど、なんとなく」
焚き火の方へ寄っていくとそりゃないぜ〜といつものように気の抜けた答えが返ってき
ただけだった。
ゼロスが真面目に話すことなんて滅多にない。
これがそうだったのかというのも微妙なところだ。
しかし、後になって思えばきっとこの時の彼もまた、
何かしらの迷いを持っていたのだろう。
それに気づくのはもっとずっと先 ———
