−46.夜襲
「ウィルガイアって凄いところだったな」
「う、うん…」
「お前、さっきから元気がねぇな。
大丈夫。コレットならアルテスタさんが助けてくれるって」
「そ、そうだね。そうだよね。
コレット、早く元気になるといいね」
救いの塔を出てからジーニアスの様子がおかしかった。
はその理由を知っている。
彼は笛を拾ったのだ。
ミトスが持っているはずのあの笛を。
その時からひとつの可能性は、つながりを帯びて形をとろうとしていた。
アルテスタの家にコレットを運び込んだその夜。
今はリフィルを助手にアルテスタはルーンクレストの作成にとりかかっていた。
そうなると一同は特にすることも無く…
「コレットのやつ大丈夫かな」
「あたしたちにできるだけのことはしたさ」
落ち着かない様子のロイド。
うろうろと広いダイニングを歩き回り
「そうそう、ロイド君。まずは飯でも食って落ち着けよ」
ゼロスに諌められていた。
食卓の上にはタバサが用意してくれた食事が並んでいる。
シチューはまだ湯気を上げ、十分に温かそうだった。
「こんな時に食えるか」
「そんなこと言うなよ〜
にんじん食う?ジャガイモは?」
「ジューダス、にんじん食う?ピーマンは?」
「…ピーマンなどどこにもないだろうが!」
真似するな、と怒られる。
そちらはそちらでロイドがゼロスに怒っていた。
「本当にいいってば!」
「おいおいおいジーニアスといいお前といいどうしてそんなに暗くなってるんだよ」
「そうだよ。どうしたの、ジーニアス」
ミトスが心配そうに尋ねる。
「ミトス…あのね?あの…」
言いかけたときだった。
「治療は完了シまシた」
タバサが奥の工房から出てきて微笑んだ。
アルテスタもその後ろにいる。
「コレットは?」
「今は眠っておる。次に目覚めた時にはコレットの体は元通りだ。
クルシスの輝石も完全に要の紋によって管理されるだろう」
「良かった…」
一同からもれる安堵の息。
あれだけ苦労したのだ。それでどうにもならなかったら報われないと言うものだ。
「そっか、これでコレットはもう苦しまなくてもいいんだな」
「よーし!んじゃまーコレットちゃん全快のお祝いに飯にしようぜ」
「さっきからメシメシってうるせーなー」
「だってよ、俺様たち親友だろ〜」
暑苦しい。後ろから抱きついている。
親友であることと食事に一体何の関係があると言うのか。
「ロイド君が疲れてるんじゃないかと思ってさ」
「二人とも仲がいいね」
「そ〜でしょ〜」
ミトスに言われると、ゼロスは調子に乗っている。
ロイドは嫌そうな顔満々なのだが。
「ジーニアスも疲れてるの?」
「ボクたち…友達だよね、ミトス?」
「え?うん、何言ってるの?」
いきなりの確認に戸惑ったようにミトス。
ジーニアスは真剣そのものでそれがまた不安を募らせるようだった。
「本当に友達だよね」
「う、うん…」
「ボク、信じてるからね」
「…」
そう、ミトスはユグドラシルなのだ。
憶測の域は出ないが確信はどこかであった。
そうすれば絶海牧場でのアスカのことも辻褄が合う。
ミトスはユグドラシルで1000年前の英雄だ。
かといってここで暴露するでもなく、
はジーニアス同様彼の出方を伺った。
ミトスがユグドラシルであるなど、その人柄においては信じ難いことである。
そうしてつつがなく食事を終える。
先ほどまでの緊張感はどこへやら…テーブルに肘をついて舟をこいでいるロイド。
よだれまでたらしそうな勢いなので
は揺さぶり起こした。
「ん。何か飯食ったら急に眠くなっちまった」
はたと身を起こしてロイドは立ち上がる。
「俺、先に横になってるわ」
「食べてすぐ寝ると消化に悪いわよ」
そんな忠告に耳も貸さずロイドはふらふらと奥の部屋へ姿を消した。
「何か、ボクも眠…」
「んもう、しょうがないわね」
ジーニアスをつれてリフィルもダイニングを去る。
夜の静寂は、もの寂しいドワーフの岩窟をひたすらに包み込んでいた。
誰もが疲れからか、眠るのは早かった。
「ロイド、しっかりして!ロイド!!」
どれくらい経ったろう。まだ夜中には違いない。
は遠い叫びで目を覚ました。不吉な予感に外へ出て驚愕する。
そこにいたのは、レネゲードの部下とユアンとクラトス、そしてコレットとロイドだった。
それだけならばまだいい。
クラトスは倒れ伏しているし、明らかにユアンとロイドは対峙しているようだった。
先日の共同戦線からは考えもつかない構図だ。
「それにクラトスさん、ロイドを助けてくれたんでしょう!?」
コレットが声を張り上げて説得している。
何を説得しているのだろう。
「あぁ、そうだな。ありがとう」
冷静になったのかロイドはユアンの方を向いたままコレットに礼を述べた。
「でもやっぱり俺はあんたを父さんとは呼べない」
「クラトスさんがロイドの…お父さん?」
何があったのだろう。懸命に推測するが倒れ伏すクラトスを前に今は答えは出ないように思えた。
「ロイド…」
「あんたの…クルシスのやり方は嫌なんだ。
今まで沢山の人が死んだ。シルヴァラントやテセアラの人もレネゲードやクルシスやディザイアンも。
みんな犠牲になった人たちだ。
でも目的のためには犠牲が出てもいいなんて思えないよ
死んでいい命なんてない。死ぬために生まれる命なんてあっちゃいけないんだ。
俺はコレットを助けるために世界を見殺しにはしない。
最後の最後までみんなが生きる道を探したい」
まっすぐにユアンを見返す。背後の扉が開いてそこから姿を現したのはミトスだった。
「素晴らしくくさい演説だね。ごくろうさま」
「ミトス?」
威嚇していたレネゲードに手をかざすと、一撃で倒して中央に進み出る。
その手はユアンにも及んだ。
一瞬、後退をしたユアンだったが、次の瞬間には銀の光にはじかれ、背中から柵に激突していた。
もはやレネゲードで立っているものは皆無だった。
「ボクが気づいてないとでも思った?残念だったね」
ふふ、と笑って緑の瞳を細める。
楽しそうに彼は倒れるクラトスをちらと眺め見た。
「クラトスにはプロネーマを監視につけてたんだ。
ロイドたちに情報を流していたみたいだからね」
「くそっユグドラシル!
お前がどうしてここに…」
地に伏せたまま苦々しくユアンが呟く。
「な、何っ…!?」
「なかなか面白い趣向だったよ。
ボクの邪魔ばかりする薄汚いレネゲードがお前だなんてさ。
本当なら殺すところだけど姉さまに免じて命だけは助けてあげるよ」
倒れ伏すままのユアンにけりを入れるミトス
嘲笑はいよいよ高らかに、狂ったように彼は笑い続けた。
「アハハハ、ハハ、アハハハハ!」
「や、やめろ!お前、一体…」
「どうしたんじゃ!」
気づいたのか、アルテスタを筆頭に仲間たちが現れた。
「ミトス…っ!、やっぱり…」
驚愕のまなざしでみつめるジーニアス。
笑いを貼り付けたまま顔を少しだけこちらに向けて瞳を細める。
「やっぱり?やっぱり信用できなかった?
正解だね、ジーニアス。ボクもお前なんか信じて無かったよ!」
「きゃっ」
「うおおおおお!」
唐突に放たれた白光はプレセアにまっすぐに飛んだが、割って入ったのはアルテスタだった。
「ミトスサんは私を…助けてくれまシた」
「う、うるさいっ!」
その牙は続いてタバサに向けられる。
「ミトス…タスケテ…クレ…マシタ…ミト…ス…」
タバサは宙を舞って背中から岩盤にたたきつけられるとそれでも壊れたテープのように繰り返しそんなことをつぶやいていた。
「何てことを…!あなたは自分を犠牲にしてタバサを守ったのに!」
「どうして!ミトス!どうしてだよ。
何でタバサさんやアルテスタさんを傷つけるのさ!あんなに仲良くしてたじゃない!」
「タバサ!不気味なほどボクの姉さまに生き写しのあの人形!」
笑みが消える。
憎悪にも似たまなざしでミトスは背もたれのように岩盤に背を預けるタバサを睨み付けた。
「ずっと気に入らなかった!あいつは姉さまの心を受け止め切れなかった
できそこないの器だ!見るだけでへどが出る!」
「このクソガキが!俺の親友を裏切りやがって!」
ロイドが魔人剣を放つ。避けることなくミトスはそれを受け、膝をついた。
「ロイド!やめて!
駄目だよ!二人ともボクの友達なんだから!」
「ユグドラシル様、まだ傷が癒えておらぬのでしょう!ここは他の天使たちにおまかせを」
虚空からプロネーマが現れる。
「わかった」
忌々しそうに瞳を眇めるとミトスの姿はユグドラシルのそれへと変わった。
そして、未だ意識を失ったままのクラトスを連れ虚空に消える。
代わりに現れたのは三体の天使だ。
黒い翼をはためかせながらゆるりと降りてくる。
誰も彼も見下ろす瞳は死んだ色をしていた。
「そこをどけ!」
「死ぬための命なんてあっちゃいけないだと?
自分がつけているそのエクスフィアが何なのか冷静に考えてみるといい」
切っ先を天へと向けるロイドの耳に、ユグドラシルの残していった声だけがむなしく尾を引いていつまでも残っていた。
「タバサ…」
「いら、いらっシゃい…
ごよ、ごよう…なに…」
こうなってはじめて機械なのだと気づく
彼女は壊れたテープのように同じ文句を意味も無く繰り返すだけだった。
「守ってあげられなくてごめんね」
プレセアが傍らに膝をつく。
その傍らではアルテスタの背の傷をリフィルが施術をしていた。
「お、ロイドか…」
「しゃべるな。無理しちゃ駄目だ!」
「お願いです、先生!アルテスタさんを助けて!」
「わかっていてよ」
とはいうものの術を施すリフィルの顔は深刻だ。
「ミトス…どうしてこんな酷いことを…」
「大丈夫か」
ロイドは気にかけながらもようやく口を開いたといった風に、背を壁に預けたままのユアンに声をかけた。
彼もお世辞にもダメージは小さいとはいえないようだった。
背を預けているのもただ立っているのがつらいからなのだろう。
「これで我々の作戦は全て水泡に帰した…」
「オリジンと契約してエターナルソードを使うつもりだったんだな」
「どういうこと?」
が尋ねる。クラトスがオリジンを封印していることは知っていたが先ほど何があったのかまではわからない。
ロイドは一瞬口ごもったが気まずそうな顔で口を開いた。
「俺が…あいつの息子だから。俺の命と引き換えにこいつはオリジンの封印を解けといってきたんだ」
「そうだ。そして魔道砲であのまがまがしい塔を破壊すれば大いなる実りは発芽する。
それが我々の計画だった」
ユアンは開き直っているようにそんな彼らを見下ろしていた。
「ディザイアンの内通者からお前の存在を知り、それでクラトスを動かせると…確信した」
「お前は…ミトスの千年王国に賛同しなかったのか?」
「あの計画は、マーテルの遺言を歪めて捉えた結果だ。
彼女が真に望んだものではない」
「マーテルの遺言はどんなものだったんですか?」
小さく息をついてユアンは瞳を閉じる。
その様子は遥か過去を回顧しているかのようでもあった。
「誰もが差別されることのない世界を見たい…と、そう言っていた」
誰もが差別されることのない世界…理想論だ。人は人が存在する限り差別をしていくだろう。思いやりを持ち合う一方で、比較をすることでアイデンティティーを保とうとする。人はそういう生き物だ。
それでもなお、求めずにはいられないのだろう。それもまた、人というものである。
「動かない方がいい」
背を壁から離したユアンにロイドが眉をしかめながら言った。
「いや、時間がない。ユグドラシルに殺される前にレネゲードを退避させねば」
「待ってくれ。オリジンの封印は本当にクラトスにしか解けないのか?」
「そうだ。やつの体内のマナを放射することで封印は解ける」
「そんなことをしたら命を落としかねないわ」
人の体はマナでできているに等しい。誰もが想像に足る結末だった。
「そうだ、奴自身の命をかけた封印だ」
「!クラトスの命…それとエターナルソードは引き換えだってのか!」
「ロイド、お前にエターナルソードを使うことは出来ないだろう。
あれは召喚の力を必要としない。
ただ、オリジンに認められれば良い。
しかしたった一つお前にはどうにもならぬものがある」
ローブを翻してユアンは背を向けた。
「どういうことだ。ユグドラシル…ミトスもそれを言っていたけど」
「あれはハーフエルフにしか使えぬ。
オリジンがミトスのために作り出した剣なのだからな」
「そんな…」
無常な現実をつきつけ、ユアンはドワーフの岩窟を去っていった。
* * *
結局のところ、アルテスタの傷は完全には治癒できなかった。
何とか応急処置は済ませ、なるべく早く医者を連れてきた方がいい状態だ。
しいながいい医者を知っているというので一行はフラノールへと向かうことになった。
「やっぱりミトスがユグドラシルだったんだ…」
「ジーニアス、あなた…気づいていたわね。
どうして言わなかったの?」
「そりゃ信じていたければ…言えないよねぇ」
「うん、信じたくなかったんだ…ボクと友達になってくれてあんなに優しかったミトスが…」
の隣で俯くジーニアス。
リフィルはそんな彼の両肩をゆさぶるようにしっかりと握り、説き伏せた。
「ジーニアス、彼に囚われないで。
そして惑わされないで。判るわね」
12歳の少年には酷な要求だ。けれど、長年連れ添った姉弟だからこそ言うのだろう。はもう何も言わないことにした。
少年の嗚咽が聞こえる。
「分かってる…分かってるけど、涙が止まらないんだよ」
「あれ?ゼロスは?」
雪降る町でその姿が無かったことに気づいたのはそれからしばらく。
「あいつ…この大変な時にどこをうろうろしてるんだい!」
「仕方ない…先に医者のところへ行こう」
ぞろぞろと移動するのも何なので
もまた、彼らの元を離れた。
医者を連れて行くのも全員で、ということはないだろう。
が離れたこともまたジューダスも気づかなかったようだ。
いかんせん、このパーティは人数が多すぎる。
誰かと話していればそんなものだろう。
冷たい風に頬をなでられながら、よくかかれた雪道を踏みしめて坂の上から階段を下りていくと…
「アイオニトスって俺様が飲まされた変な石だよな。
あれで契約の指輪を作る…か。
俺に…できるのか……?」
そこにゼロスの姿があった。
ゼロスを引っ張って
が仲間たちと合流したのは更にまもなく。
レアバードを使ってリーガルを筆頭に何人かが医者を送りに出かけていた。
ロイドたちが宿に入った頃にはすっかり夜の帳が下りていた。
ぱちり。
暖炉の火がはぜる。
よほど疲れたのかコレットはもう眠ってしまっている。
はコートを手に取ると、再び外へと足を踏み出した。
火照るほどに温まった体には外の風は心地よい。
もっともそれもすぐに寒いと感じるようになるのだろうが。
「よう、ハニー。まだ起きてたのかい?」
高台にある公園のテラスから街が一望できる。
ひとりで明かりの灯る景色を眺めていると後ろから声がかかった。
「…たった今眠くなった。おやすみ」
「おいおいおい。そんな冷たいこと言わないでさ。ちょこーっと、つきあわないかい」
ゼロスだった。
「いいけど…」
どうしたことか、あれほど饒舌な男が無口だった。
それからは町をただ眺めるだけ。
これがジューダスならどうということはないけれど、どこか居心地の悪さを覚えたその頃。
ゼロスはぽつりと呟くように言った。
「…その日メルトキオは記録的な大雪でな。この街と同じ眺めになっちまってた」
真っ暗な空から白い雪が降りてくる。
ふわりふぅわりと振るその向こうで、ゼロスは町を眺め続けている。
「いきなり何?」
「まあ、ちょっとした昔話よ。急に話したくなったんだ」
「まあ、話したいなら聞いてあげるけど」
はじめはこの男の軽さが嫌だった。
けれど今はそれがどこにもないように感じられ、は真面目に付き合うことにする。
「俺は初めて見る雪に大興奮してお袋といっしょに庭で雪だるまを作ってた。
したら、いきなり雪だるまが崩れてよ
何が何だかわからないうちに今度は赤い雪が降ってきた」
「赤い…雪?」
は眉をひそめる。そこに不穏を感じ取ったからだ。
いとも簡単に予感は肯定された。
「お袋の血だよ。殺されたんだ」
「…!?」
「んで、お袋が倒れ込んできて俺の肩を掴むんだ。
おまえなんか生まなければよかったって」
「でもお母様と遊んでいたんでしょう?どうしていきなりそんな…」
「お袋からすれば俺は疎ましかったんだろうよ。好きな相手でもいたんだろう。
でもクルシスからの神託で当時の神子…俺の親父と結婚しなくちゃならなくなって。しかも親父には別の女がいたしな」
ゼロスの話は少し混乱していた。
突然の飛躍に
は頭を整理するまもなく返答を余儀なくされる。
考えはいたらなかったが、思うに繁栄世界の神子は婚姻を管理されていたのだろう。
血筋のために。それともより純度の高い神子を作り上げるために?
いずれにしても、ゼロスの母親は…父親も、心ならずも愛の無い婚姻をさせられたことになる。ゼロスは神子としてのみ望まれた子供。
「それにしたってゼロスには何の罪も無いのにね」
「お袋を殺した魔法は俺をねらってたんだよ」
「…」
次代の神子として命を狙われた。
単純な構図だ。
どうして世の中はこうも立場に縛られなければならないのか。
ゼロスの話は続いている。
「お袋は…巻き込まれて死んだんだ」
心ならずに生んだ子供には愛は与えられないのだろうか。
ゼロスは皮肉げな笑みを浮かべてから暗い夜空を振り仰いだ。
「俺を殺そうとしたのはセレスの母親でな。
母親は処刑されてセレスは修道院に軟禁された」
セレスはゼロスの腹違いの妹だ。
彼女もまた、神子と言う名の跡目争いに巻き込まれたに過ぎない。
だからゼロスがこう思うのも全く否定のできることではなかった。
「マナの神子なんて…まっぴらだったんだ。ホントによ。もういつだって逃げ出したくて仕方なかった」
「うん、それでもゼロスは神子をしてきたんだね」
「!」
何を思ったのだろう。ゼロスの顔が複雑にゆがむ。
それはゼロスにとって全ての肯定の言葉だったのかもしれない。
哀しみのような表情を見せられ
は驚いた。
「…悪いな。返事に困る告白だったろ?」
しばらくの沈黙の後に、時折見せる皮肉げな笑みでゼロスは笑いかけてきた。
「いや…でもどうして急に話す気に?」
「俺は…生まれなければよかったんだ」
「それ本気?」
「いや、今もそう思ってるってことじゃねぇよ
ただ以前は、親から否定されて教会からも疎んじられて王室からは怯えられて
…逃げ出したかった」
それでも逃げずにいたからここにいるのではないか。
それとも彼は逃げ続けていたのだろうか。
いつも何かに追われながら。
「でもゼロスは今、ここにいる。違うの?」
「どうかな。今だって実のところを言うとな…色々メンドーで、いやになるんだよ
いっそ何もかも滅びた方がいいんじゃないかって」
「それで何が残るわけ?」
「怒らないんだな」
ゼロスは少し意外そうな顔をした。
いっそ滅びた方がいい。
下らない人間を見ていれば、一度も思わなかったなんて嘘になるだろう。
はその気持ちを知らないではない。
「ロイドだったら怒るんだろうけどね…」
光しか見ていない少年たち。
彼らはひたむきでそれが幸いとも見えるが、闇を知っている人間にはまた思うところがある。
「じゃあ
ちゃんはみんなに消えて欲しいと思ったことがあるのかい?」
いつだったろう。同じことを自問した。
答えは簡単だった。
「私は大切な人がいるから世界に消えて欲しくないと思う。
たった一人でもそういう人がいたなら、その人のために守りたい。それじゃ駄目?」
「たった一人でも…じゃあそれがいない人間はどうすればいい?」
「ゼロス、ゼロスには好きなものがひとつもない?」
ひとつもといわれれば答えはNOだろう。
誰にだって何かしら心を動かされるものがある。それが人であろうと、ものであろうと。
ゆえにゼロスはただ苦笑した。
ひとつでもあるなら、守る価値はある。
そのたったひとつを消してしまわないがために。
「…やるのか?本当に世界を統合できると思うのか?」
「出来ないと思えばできないだろうね」
「ここはすっきりできる、って言って欲しいんだけどねぇ」
「可能性の問題だよ」
慎重にならざるを得ない。
世界の統合はできるかもしれない、できないかもしれない。
けれど道はあるはずだった。
「…わーったわった。
ちゃんにはかなわねぇなぁ」
おそらくは心からの苦笑。
それでもその笑顔は暗くない。
白い白い、穢れの無いその雪は、まだやみそうにも無かった。
数日が経った。
アルテスタの容態が安定するのを見届けた仲間たちが帰ってきたその翌日。
全員がフラノールの門下に集合していた。
「俺も考えたことがあるんだ」
まずはロイドがそう切り出した。
「このままずるずるクルシスの出方を待ってても世界は変わらないだろ?
だから今度はこっちから仕掛けよう」
「はは〜ん!やる気になったか!クルシスに殴りこみだな」
殴り込みというとそんなことができる兵力でもない。
一抹の不安がよぎったが、やる気満々のロイド。
まぁなんとかなるだろう。
「あぁ、目的は二つ。
千年王国設立の阻止と、オリジンの解放だ」
エターナルソードをミトスの手から奪うためにオリジンの解放は絶対だ。
その危惧に触れたのはジーニアスだった。
「でもオリジンを解放すればクラトスさんの命は…」
「まだよくわからない。でも…まだ死ぬと決まった訳じゃないし、
あいつが俺たちの味方をするかもわからない。
わからないことを悩んでる暇はないさ」
全く持って羨ましい性格だ。
その勢いでクルシスに殴りこむと言うのだから頼もしいと言えば頼もしい。
「エターナルソードはどうするの?
仮にオリジンの封印をといたところでロイドでは装備できないのでしょう?
私もジーニアスも剣を扱えるのかどうか…」
「それなら心配にはおよばねぇ」
続いて手を挙げたのはゼロスだった。
「どういうことだ?」
「俺様がどうして魔法剣を使えると思う?
テセアラの新技術で魔導注入を受けたからよ。
俺様は人間だけどエルフの血も入ってるって訳だ。
どうだ?これなら何とかなりそうだろ?」
「それならこれが最後の決戦になるわね
わかりました。やりましょう。
世界の統合のために」
最後の決戦…
本当にそうなのだろうか。なぜか
はひっかかりを感じて仕方ない。
あって然るべきものがないと言うか、まだ謎がとけきらないと言うか…
それでも行くしかないのだろう。
腹をくくる。
「そうだね
私も頑張るね」
「コレットは残れ」
「どして?」
眉を精一杯寄せて疑問をあらわすコレットにロイドは言い聞かせるように正面から向かった。
「お前はマーテルの器として狙われてるんだぞ。
ミズホかレネゲードに頼んでかくまってもらうんだ」
「ロイドがそういうなら…ううん、やっぱり」
一度はうなづきかけたコレットもかぶりをふって
「ついてく!」
言い切った。
「でも…」
「ははーん、おまえ、ミトスからコレットちゃんを守り抜く自信がねーんだな
かわいそうなやつ」
ゼロスが挑発している。
「な、なんだと」
「大丈夫よ、コレットちゃん。このゼロス様が必ず守ってあげるからよ」
「ゼロス!」
「つれてってやりな。
どこにいたってコレットは狙われるんだ。
そんなことわかってんだろーが。男ならビシッと決めな」
ゼロスはロイドの肩にひじをのせると親指をピッと立ててみせる。
「はっ珍しくあんたと意見が一致したねぇ
ロイド、今回は悪いけどゼロスの言葉に同調するよ」
しいなも後押しを忘れなかった。
「わかったよ。コレットを連れて行く。それでいいな」
「ありがとロイド。それにみんな。」
「いよいよだな。ばっちり決めよーぜロイド君!」
「…ゼロス 信じていいのか?」
かけられたままのひじに押されてロイドは片目をつぶりながら赤い髪の仲間を見た。、
「何いってんだよ〜。ばっちり信じてくれって!
俺さま、人の信頼には応えるタイプなのよ」
「本当だな」
「本当本当大本当!さあ早いトコいこうぜ〜」
今度は率先して歩き出す。
少し不自然に見えるのは気のせいだろうか。
ゼロスの背中は何も語らなかった。
